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大阪高等裁判所 平成元年(ネ)1967号 判決

控訴人 鈴井喜代三

右訴訟代理人弁護士 保津寛

同 露口佳彦

同 佐々木信行

同 小野博郷

被控訴人 株式会社 協立倉庫

右代表者代表取締役 境知義

右訴訟代理人弁護士 山﨑忠志

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は、控訴人に対し、金三二〇万九六七七円及び内金五〇万円に対する昭和五九年二月一日から、内金五〇万円に対する同年三月一日から、内金五〇万円に対する同年四月一日から、内金五〇万円に対する同年五月一日から、内金五〇万円に対する同年六月一日から、内金五〇万円に対する同年七月一日から、内金二〇万九六七七円に対する同年八月一日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを二七分し、その一〇を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

三  この判決は、第一項1に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は、控訴人に対し、金九一一万四九九〇円及び内金八七三万三三三三円に対する昭和六〇年七月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張及び証拠関係《省略》

理由

一  被控訴人は、いわゆる同族会社として倉庫業を営む株式会社であること(請求原因1の事実)、控訴人は、昭和四五年一二月被控訴人の専務取締役に就任し、以来毎月末日限り定額の報酬の支払を受けつつ、専務取締役として再任され続けてきたが、昭和五八年一二月の時点において一か月金五〇万円の報酬を支給されていたこと(同2の事実)、控訴人は、昭和六〇年六月一四日開催の第二一期決算期(昭和六〇年三月三一日期)に関する定時株主総会をもって取締役の任期を終了したこと(同3の事実)は、いずれも当事者間に争いがない。右争いのない事実によれば、昭和五九年一月一日当時、控訴人は被控訴人に対し月額金五〇万円の取締役報酬請求権を保有していたということができる。

被控訴人は、被控訴人の会社では、昭和五九年七月一三日の第二〇回定時株主総会まで一度も株主総会を開催したことがないから、株主総会で取締役の報酬の決議をしたことはなく、また、定款にも取締役の報酬金額を定めた規定がないから、そもそも控訴人の取締役報酬請求権は発生していない旨主張するところ、原審における被控訴人代表者本人尋問の結果中には、被控訴人の会社では、昭和五九年七月一三日の第二〇回定時株主総会まで一度も株主総会を開催したことがないとの供述部分があるが、右供述部分は乙第一ないし第四、第一八ないし第二〇号証(いずれも株主総会議事録)の存在すること及び右争いのない事実に照らして信用することができないので、被控訴人の右主張は採用できない。

二  次に、抗弁1について判断する。

この点に関しての当裁判所の事実認定は、原審の認定と同じであるから、原判決五枚目表五行目の「右争いのない事実」から同八枚目表六行目の「以上のとおり認められる。」までをここに引用する(但し、原判決五枚目裏八行目の「被告に」を「被控訴人の」と、同六枚目表六行目の「原告とで」を「控訴人との間で」と、同八行目の「従事していた。」を「担当していた。」と、同七枚目表八行目の「今後被告出社しない」を「今後被控訴人に出社しない」と、それぞれ改める。)。

右認定の事実によると、被控訴人の会社内において代表取締役境和義と専務取締役である控訴人との対立関係が激化したので、被控訴人は、昭和五八年一〇月一五日にその取締役会において(控訴人は同日の会議は取締役会ではなく親族会議にすぎない旨主張するが、取締役全員が出席し取締役会の権限事項を決定しているから右会議は実質的に取締役会の性質を持つものというべきである。同族会社においては、取締役会が親族会議的側面を併有していることはよくあることであって、親族会議的側面があるからといって、取締役会であることを否定できるものではない。)、控訴人の同意を得ることなく、控訴人を常勤取締役から非常勤取締役に変更することを決議し、その後、代表取締役境和義において、控訴人の出社を阻止して右決議を実行したこと、被控訴人は、昭和五九年一月一三日の取締役会において、昭和五八年一〇月一五日の取締役会の決議を前提として、控訴人の同意を得ることなく、従前控訴人に支給していた月額五〇万円の取締役報酬を昭和五九年一月一日以降は支給しないことを決議したこと、被控訴人は、昭和五九年七月一三日の第二〇回定時株主総会において、控訴人の同意を得ることなく、境和義に年額六〇〇万円の取締役報酬を、境朝子に年額四八〇万円の取締役報酬を支給し、控訴人を含むその余の取締役は無報酬とすることを決議したこと、すなわち、抗弁1(一)ないし(三)の各事実が推認できる。

そこで、再抗弁1について、判断する。

控訴人は、取締役の報酬は、任期終了前、当該取締役の同意なしにはこれを減額ないし無報酬とすることはできないと主張する。会社と取締役との関係は、株主総会の取締役選任決議に対し、取締役が就任を承諾することにより成立する委任ないしは準委任契約関係であり、取締役報酬はその金額が定められると報酬についての特約の内容となるから、契約の拘束力により、一旦定められた取締役報酬は、原則として、当該取締役の同意がない限り、その任期中にこれを一方的に減額ないしは無報酬とすることは許されないと解すべきである。前記認定のとおり、被控訴人は、昭和五八年一〇月一五日の取締役会において、控訴人の同意を得ることなく、控訴人を常勤取締役から非常勤取締役に変更することを決議したうえ、昭和五九年一月一三日の取締役会において、控訴人の同意を得ることなく、従前控訴人に支給していた月額五〇万円の取締役報酬を同年一月一日以降は支給しないことを決議しているが、右観点からすれば、右取締役会の報酬不支給の決議は控訴人の報酬請求権を消滅させるものではないというべきである。しかしながら、取締役報酬は職務執行の対価であるから、任期途中に取締役の職務内容に著しい変更があれば、取締役報酬もそれに応じた変更を加える必要があるし、また、定款に定めがないときは、そもそも、株主総会に取締役報酬金額を定める権限があるから、任期途中の取締役の職務内容に著しい変更があり、かつ、それを前提として株主総会が当該取締役の報酬の減額ないし不支給の決議をしたときには、例外的に、会社は、当該取締役の同意を得ることなく一方的にその報酬を将来に向かって減額ないし無報酬とすることができると解すべきである。

本件においては、前記認定のとおり、昭和五八年一〇月一五日の取締役会決議に基づき控訴人の職務内容は常勤取締役から非常勤取締役へと変更されて著しく負担が軽減されているし、また、これを前提として被控訴人の株主総会は昭和五九年七月一三日控訴人の取締役報酬を無報酬とする決議をしているから、右見地に基づき、控訴人の同意がなくても、被控訴人の右株主総会決議により、控訴人は翌七月一四日から取締役報酬請求権を失ったものといわなければならない。

してみると、控訴人は、被控訴人に対し、昭和五九年一月一日から同年七月一三日までの間の取締役報酬請求権(月額五〇万円)を有していることになる。

三  請求原因4についての当裁判所の判断は、原判決理由二(原判決九枚目表一行目から同裏一行目まで)の説示と同じであるからこれを引用する。

四  以上によれば、被控訴人は、控訴人に対し、昭和五九年一月一日から同年七月一三日までの月額五〇万円の取締役報酬請求権合計金三二〇万九六七七円及び内金五〇万円に対する弁済期の翌日である同年二月一日から、内金五〇万円に対する前同様の同年三月一日から、内金五〇万円に対する前同様の同年四月一日から、内金五〇万円に対する前同様の同年五月一日から、内金五〇万円に対する前同様の同年六月一日から、内金五〇万円に対する前同様の同年七月一日から、内金二〇万九六七七円に対する前同様の同年八月一日から各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。そうすると、控訴人の本訴請求は右支払義務の限度で理由があるから、これを認容すべきであるが、その余は理由がないから失当として棄却すべきである。

よって、右と一部異なる原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大久保敏雄 裁判官 妹尾圭策 中野信也)

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